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The Butterfly Effect バタフライ・エフェクト

アメリカ映画 (2004)

10歳のローガン・ラーマン(Logan Lerman)が7歳の時点での主人公エヴァンを演じるSF的サイコ・サスペンス・ドラマ。分類のしようのない特殊な映画。複雑なストリーを93分で破綻なくまとめきった脚本は、完璧で美しくすらある。私の大好きな1本だ。主人公のエヴァンは、祖父の代から続く遺伝性の精神疾患、というか、特殊才能の持ち主。過去に戻って自らの行為を改変することができる。しかし、過去への介入によって生じるパラレル・ワールドは、短絡的な即断で介入が行わるため、何らかの点で介入以前より事態が悪化してしまう。そして介入を繰り返すことで、取り返しがつかなくなり、祖父と父は精神に異常を来たして精神病院で一生を終えている。映画では、7歳、13歳、20歳のエヴァンが描かれる。しかし、普通の映画のように一方通行ではない。発端は、大学の寮にいる20歳のエヴァンが、偶然13歳の時書いた日記を読み、一瞬過去に戻るところから始まる。自分は本当に過去に戻ったのか、それとも、ただ夢を見ただけなのか? それを確かめるため、そこで聞いた一言が本当に発せられたかどうかを確かめるため、故郷に戻って友達のレニーと会う。レニーは本当に言っていた。つまり、夢であるある可能性は低くなった。エヴァンは寮に戻ると、もう一度13歳に戻ってさらに手がかりを求めるが、その中で偶然行った些細な出来事が、20歳に戻った自分を小さく変えたことに気付く。再度故郷に戻ったエヴァンは、そこでかつての恋人ケイリーと会うが、彼女は小さな町に取り残され、生きがいのない人生を抜け殻のように送っている。エヴァンは7歳と13歳の時、時々、記憶が飛ぶことがあったが、最大の疑問の1つは、ケイリーと一緒に、彼女の父に児童ポルノ映画を撮らされた時に飛んでしまった記憶だった。その点についてケイリーに尋ねると、その恥辱が彼女にとって最大のトラウマだったことから、彼女は強く反発する。そして、寮に戻ったエヴァンを待ち受けていたのは、彼女の兄トミーからの、彼女が自殺したという留守録。ショックを受けたエヴァンは、7歳の児童ポルノ事件の直前に戻り、ケイリーの父親に7歳の自分を乗っ取り、大人の言葉で強く警告する。その際、うっかり、ケイリーの兄をもっと厳しく教育しろと言ってしまう。この過去への介入により、その後のエヴァン、ケイリー、トミーの人生は全く変わってしまう。それが、第1のパラレル・ワールドである。そこでは、田舎でくすぶっていたケイリーは、エヴァンと同じ大学に入り、エヴァンは社交クラブにも入っている。優雅に愛し合う2人。すべてはハッピーに見えたが、過去のエヴァンの命令で父親から虐待されたトミーはさらに不良になってしまっていた。そして、釈放されたトミーが現れ2人の仲を裂こうとする。エヴァンはトミーと激しい喧嘩になり、自己防衛が怒りに変わりトミーを殺してしまう。エヴァンは殺人犯として刑務所に収監される。母から差し入れてもらった日記も数ページを除き、変質的な囚人2人に盗られてしまう。囚人から日記を奪い返すため一度7歳に戻り、用意を整えてから囚人2人を刺し殺して日記を奪い、13歳に戻ってトミーの残虐行為を諌めて暴行を止めさせる。しかし、成功した直後、レニーがトミーを刺し殺してしまう。こうしてエヴァン、ケイリー、レニーは第2のパラレル・ワールドに入る。そこでは、レニーが13歳で犯した殺人以降ずっと精神病院のベッドに縛られたまま監禁されている。さらに、兄を失ったケイリーは、父親のなぶりものにされ、今では娼婦に成り下がっていた。事情を説明するエヴァンに、ケイリーは、13歳の時に起きた爆発事件を止めるよう要求する。ケイリーとレニーを救うため13歳に戻り、トミーが主導したダイナマイトによる郵便受けの爆破事件の直前に介入、自ら郵便受けの前に飛び出して行き、母子の接近を止めるエヴァン。実は、この爆発で母子は死亡し、レニーは自閉症になってしまっていた。この介入により、4人、プラス、エヴァンの母が影響を受ける。第3のパラレル・ワールドでは、エヴァンは爆発をもろに体で受け止め、両腕を失っている。代りに、睦まじく愛し合うケイリーとレニー。エヴァンの母は、13歳の息子の受けた大ケガに絶望してヘビー・スモーカーになり、今や末期の肺癌だ。この惨めな自分自身と母を救うため、エヴァンは7歳の児童ポルノ事件の直前にもう一度戻り、介入。ダイナマイトを捜し出す。実は、13歳の爆破事件は、地下室に置いてあったダイナマイトを使ったものだった。トミーがどこからダイナマイトを取り出したかを見ていたエヴァンは、同じ場所に隠してあったダイナマイトを取り出し、それに火を点けるが、ケイリーの父が飛び掛ってきたため、ダイナマイトは床を転がっていき、何も知らないケイリーがそれを拾う。ケイリーは爆死。第4のパラレル・ワールドでは、ケイリーの死でショックを受けた7歳のエヴァンが精神病院に入院し、20歳に至っている。過去の記憶はすべて残っているので、医師に日記を渡してくれと頼むが、この世界ではエヴァンは元々日記を付けていなかった。そこで、母に7歳の野外パーティの時に撮影した8mmフィルムを持って来てくれるように頼む。エヴァンはかつて、ケイリーから、自分の両親が離婚した時、父と一緒に住むことにしたのは、好きなエヴァンと会いたかったからだと言われたことを覚えていた。そこで、7歳のパーティに戻り、ケイリーの気を変えさせようとする。キスしてくれたケイリーに向かって、「大嫌いだ。もし今度寄ってきたら、殺してやる」と脅すエヴァン。逃げて行くケイリーを見ながら「さよなら」と言う姿が寂しげだ。そして、第5のパラレル・ワールド。この世界では、ケイリーは母と別な町で暮らして大きくなった。だから20歳のエヴァンはケイリーと全く接触がない。その8年後、ニューヨークの街中で2人は偶然にすれ違う。ケイリーは、何となく惹かれるものを感じるが、そのまま別れて行く。もの悲しいハッピーエンドだ。映画の中の場面の移動をもう1度連続して書くと、71320132013207(1回目の介入)→2072013(2回目の介入)→2072013(3回目の介入)→207207(4回目の介入)→207(5回目の介入)→2028となる。非常に複雑な構成で、過去への介入によって派生したパラレル・ワールドは5回。最後の1回を除いては、状況は、その都度 悪化の一途を辿る。最後の28の終わり方に私は満足しているが、これは、若い脚本家2人が、どこの映画会社からも製作を断られたこの企画を唯一認めてくれたニューライン・シネマからの強い要望で、ハリウッド的なハッピーエンドに改変させられたもの。ディレクターズ・カット版では、当初の脚本通りのエンディングになっている。そこでは、最後が「2028」ではなく、「280」になっている。過去の4回の失敗で、介入することの「邪悪さ」を知ったエヴァンは、母の胎内にいる段階で、へその緒を首に絡ませて自殺する。結果として、パラレル・ワールドそのものが発生しなくなる。2人の脚本家兼監督は、こちらの方がお好きなようだが、私にはあまりに自虐的過ぎて好きになれない。ただ、不思議なことは、字幕サイトopensubtitles.orgにあるこの映画の映画字幕の大半がディレクターズ・カットのエンディングになっていて、日本で発売された2枚組のDVDの「日本公開版」とは違っている点。現在、世界では、どちらのエンディングが「標準仕様」になっているのであろう? なお、あらすじでは、なるべく分かりやすくするため、節ごとにアルファベットを付けることにした(写真にも)。また、年齢毎に写真の背景色を変えることにした。また、写真の色調は、監督の意向を尊重し、彩度に高いもの、低いもの等をそのまま使用したことをお断りしておく。

ローガン・ラーマンは、映画初主演の『パトリオット』(2000)の時から可能な限りフォローしているが、最大の特徴は演技の幅と、個性的な眉と笑顔。10歳の代表作が『ペインテッド・ハウス』(2003)、14歳の時の『3時10分、決断のとき』(2007)で高く評価され、『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(2009)で軌道に乗り、『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011)と 『ウォールフラワー』(2012)で大作にもドラマにも向くところを見せ付け、『フューリー』(2014)で男らしさを発揮してからは、アメリカで公開されたばかりの『Indignation』(2016.7.29)で主役、公開予定の『Rothchild』『Sidney Hall』(2017)でも主役と、子役→ティーン→成人俳優への脱皮に成功した稀な存在である。なお、13歳のエヴァンは撮影時16-17歳のティーンが演じているが、13歳らしくなくて違和感が強い。明らかなミス・キャスト。


あらすじ

A  映画の冒頭は、20歳のエヴァンが深夜、部屋に侵入し、何かを捜し、机の下に隠れて必死でメモを書いているところから始まる。「もし、誰かがこのメモを見つけたら、僕の計画が失敗したことになる。その時には僕はもう死んでいる。でも、もし僕が何とか最初に戻れたら、彼女をきっと救うことができる」。そして、タイトルが入り、画面は13年前のきれいな住宅地に切り替わる。愛犬と遊ぶ7歳のエヴァン。その後、車の修理をしている母に呼ばれる。「また遅刻しちゃう」。「いつから、時間通りに学校に行くようになったの?」。「授業参観のための絵を仕上げないと。パパは来る?」(写真A-1)。「答えを知ってるくせに」。「1日だけ、出て来れないの?」。「何百回も話してるでしょ。危険なんだって」。父は重度の精神障害で、病院に閉じ込められている。学校に着いたエヴァン。本編とは関係ないが、deleted sceneの1つに、教室での1コマがある。トミーがクレヨンとパスタを使って描いた家族の絵を、レニーが「ママが離れすぎてて変だよ」と批判する。トミーの妹のケイリーが「ママは遠くにいるけど、時々来てくれる」と援護するが、レニーは「僕にはちゃんとママがいる」と自慢そうに言う。怒ったトミーは、レニーの絵を壁から剥がして床に捨てる。それを見たエヴァンは「おい、何するんだ」とトミーを叱り、壊れたレニーの母の替わりに、自分の絵からママを破りとって渡してやる。「持ってていい?」。「もちろん」(写真A-2)。エヴァンの善良さを示すだけでなく、ケイリーがエヴァンを慕っている様子〔これが物語の要〕もはっきりと分かる。母がエヴァンを学校に送って行くと、そこに担任が現れて、エヴァンの描いた絵のことで是非話したいと言う。教師が母に見せた絵は、エヴァンが坊主頭と金髪の2人の男をナイフで刺し殺すという異常なものだった(写真A-3第1のパラレル・ワールドの写真M-1)。教師の話では、エヴァンはこの絵を描いたことを覚えていないという。エヴァンの記憶は、7歳の時と、13歳の時、何度も途切れる。それは、20歳のエヴァンが介入した結果記憶が飛んでしまうからだ。つまり、この絵は、20歳のエヴァンが7歳に戻って、自ら描いたのだ。だから、7歳エヴァン自身は、そのことを覚えていない。なお、20歳のエヴァンが過去の自分に侵入するためには、自分の書いた日記を読む必要がある。しかし、この時点ではまだ日記は書かれていない。それにも係わらずエヴァンが介入できた理由は、この絵について母から執拗に尋ねられたと、後から日記に書いてしまったためだ。
  
  
  

B  絵のことで心配になった母は、精神病の父親からの遺伝かもしれないと思い、息子を病院に連れて行く。CTで検査(写真B-1)した結果、父親のような疾患は見つからなかったが、医師は経過観察のため、「お子さんの記憶をチェックするいい方法があります」と、日記を書かせるよう勧める。「起きたことをすべて書かせるんです」。この日記の山が、20歳になった時、過去に介入する道具として使われるので、この指導はきわめて重要である。翌朝、エヴァンはさっそく日記を書き始める。「今日、ママは、ケイリーとトミーの家に連れて行ってくれる」(写真B-2)。「僕は2人のお父さんに会って、ホントのパパを見るんだ」。母が、バッグを取って戻って来ると、キッチンに立っていたのは、包丁を手にしたエヴァン(写真B-3第3のパラレル・ワールドの写真Q-2)。当然エヴァンには、包丁を手に持っていたという記憶はない。元々は、第3のパラレル・ワールドのエヴァンが、ダイナマイトを破壊する手段を捜そうとして入り込んだのだが、1ページ早く入り込んだため、役に立たなかったもの。あまり意味はないので、観客をどきりとさせるために仕組んだだけの挿話。
  
  
  

C  エヴァンを出迎えるケイリーとトミーの父親。子供用のラグビーのボールを手に持ち、如何にも理想的なパパぶりだ。「投げるぞ、下がって。そのまま裏庭へ行くんだ」。待っていたケイリーが、「パパが新しいビデオ・カメラ買ったの。映画を撮るんだって」と嬉しそうに言う。父親:「そうなんだ、エヴァン。君は、スターだぞ」「いいか、エヴァン、約束してくれ。最高の とびっきりの約束だ。私たちだけの秘密にすること。できるな?」。期待して嬉しそうに頷くエヴァン(写真C-1)。その先、記憶が飛び、気付いた時、エヴァンは、ケイリーと一緒に、眩しい照明に曝され、全裸で立っていた。「ここどこ? どうなってるの?」と訊くエヴァン(写真C-2)。「今まで他の場所にいたのに」。床に脱ぎ捨ててあった服で体を隠して「なぜここにいるの?」と訊く。父親からは、態度の急変を叱られただけなので、隣のケイリーに「何があったの?」と訊く。しかし、ケイリーは何も言わずに立っている〔心の衝撃が大きすぎたため〕。後ろの階段に腰掛けたトミーは、怖い顔をして人形の頭を捻り切っている(写真C-3)。実は、この父親は、小児性愛者で、ケイリーを弄ぶだけでなく、エヴァンと2人にポルノ行為をさせていたのだ。この最悪の経験がケイリーに落とした影は非常に大きかった。トミーが暴力化したり、エヴァンとケイリーが仲良くすることを嫌う原因にもなった。そして、エヴァンの記憶をなくしたこの場面に、20歳のエヴァンと、第3のパラレル・ワールドのエヴァンが2回介入している。
  
  
  

D  エヴァンの検査結果を聞きに行った母。何も異常はないので、記憶喪失の原因は、ストレスが原因ではないかと言われる。父親がいないことが関係しているかもしれないとも言われ、医師の勧めで父に面会させることになる。エヴァンは、病院に向かう車の中で、「今日、父さんに会いに行く。名前はジェイソン、気が狂ってる。パパと呼べるといいな」と日記に書いている。父親には安全のため鎮静剤が投与され、両手に鎖が掛けられた状態で、テーブルを挟んで面会する。「大丈夫、噛み付かないよ」と微笑む父。「写真を見たことあるだろ?」。「ママが笑顔が似てるって、髪の毛も…」(写真D-1/写真N-3)。次の瞬間、エヴァンの首には父の両手がかかり、絞め殺そうとしている(写真D-2)。監視員に引き離された後も、「この子は死ぬんだ。それしかない!」と叫び、エヴァンを殺そうとする。止めようとして監視員が棒で頭を殴り、当たり所が悪くて父は死亡。父の態度が急変したのは、第2のパラレル・ワールドで、20歳のエヴァンが7歳のエヴァンに侵入し、父から、失敗した過去への介入の修復方法を聞き出そうとしたため。介入の危険性を説く父の警告を無視して、介入に自信満々な息子。息子の行き着く先が想像できるので、大事に至る前に殺そうとしたのだ。母子とケイリーだけが参列して行われる埋葬。家に戻る車の中で、通り過ぎる墓また墓を何も考えずに見ているエヴァン(写真D-3)。これで、7歳のエヴァンのシーンは終わり、13歳のエヴァンへと移る。しかし、7歳のエヴァンには6回介入があるので、ローガン・ラーマンの登場はこれが最後ではない。
  
  
  

E  ケイリーとトミーの家の半地下室で、エヴァンとレニーも交えた4人が集まっている。エヴァンはケイリーをスケッチし、相変わらず仲がいい。ここで重要なのは、トミーが捜しているもの。ようやくポットの中に隠してあったダイナマイトを見つけて取り出す(写真E-1/写真Q-3)。「爆弾を隠してること、知ってたんだ。さあ、何か吹っ飛ばしに行こうぜ」。向かった先は近所の家。トミーは手下的存在のレニーに、「やって来い」とダイナマイトを渡す。「ヤだよ。触れたくもない」。「何が何でもやるんだ。やれば、チクらないからな」。導火線に火の点いたタバコを刺したものを渡され、家と同じ形をした郵便受けにダイナマイトを入れるレニー(写真E-2)。その時点では、郵便受けを粉々にするだけの悪ふざけのつもりだった。4人がじっと爆発するのを待っていると、エヴァンの記憶が飛び、次の瞬間、トミーと2人でレニーをかついで、森の中を歩いている(写真E-3)。エヴァンには何が起こったのか分からない。レニーはショックのあまり呆然として口もきけない状態。ケイリーは「神様、どうしよう」と言うだけ。その後のシーンで、救急車が到着しているので、誰かが爆発で死傷したことがわかる。駆けつけた母がエヴァンに訊いても、「知らない。覚えてない。記憶が飛んでる」と言って泣くだけ。実は、この家に住む母親が赤ん坊を抱いて帰宅し、郵便受けを開けようとして爆死したのだ。この事件は、ケイリーに暗い影を落とし、実行犯のレニーを強いトラウマを与えだ。エヴァンが実際に起きたことを知るのは20歳になって初めて過去が改変できると悟った時。そして、第2のパラレル・ワールドの時に、ケイリーとレニーを救うために介入する時。
  
  
  

F  事件の後、エヴァンは再び病院に行き、以前の担当医に、催眠術をかけられ記憶を取り戻そうとするが、暴れて鼻血を多量に出したためストップする。また、レニーは精神病院に入院させられた。エヴァンは、ケイリーとトミーと一緒に映画を見に行く。あまりにひどい内容に、途中から抜け出したケイリーとエヴァンが映画館のロビーでキスをしていると(写真F-1)、トミーが「何してやがる!」と罵声を浴びせる。その言葉を、自分に言われたと思った若者が、「ポプコーンを買ってるんだ。このクソ野郎」と言ってトミーに足をかけて転ばせる。それに怒ったトミーは、相手を容赦なくぶちのめし、係員によって連れ出される。非常に暴力的な性格だ。母は、事件へのトミーの関与を疑い、教育上良くないと引越しを決意する。その後もトミーの異常な態度は続き、入院していたレニーも戻って来る。さっそくエヴァンとケイリーはレニーの様子を見に行く。玄関からは母親に拒絶されたので(deleted scene)、2階の窓からアクセスする(写真F-2)。レニーは飛行機のプラモデルを作ることで、事件を忘れようとしている。エヴァンが、「お帰り。気分転換に外の空気を吸ったほうが良くないか」と誘う。「トミーはいない?」。「いない。安心しろ」。レニーは模型を振り返って見て、どうしようかと考えるが、結局一緒に行くことにする。森の中を歩きながら、病院での生活がいかに辛かったかをケイリーに話すレニー。「二度と戻りたくない」。そこは廃車置場で、その先で何か異常が起きている(写真F-3)。あまり意味のない写真を載せた理由は、第1のパラレル・ワールドで過去を改変しようとして、これと同じタイミングで、エヴァンがレニーにロープを切るための金属片を渡すシーン(写真M-2)があるからだ。3人が先に進んでいくと、そこにはトミーがいた。エヴァンの愛犬を袋に入れ、ロープで縛り、灯油を注ぎ、焼き殺そうとしている。ケイリーがエヴァンに取られたことへの見せしめだ。止めに入るエヴァンとケイリーの前に、太い角材を持って立ちはだかるトミー。トミーはまずケイリーの頭を強打し、昏倒させる(写真F-3)。昏倒はしたが、ケイリーの顔に傷はない(写真M-4と対比)。この後、エヴァンも殴る蹴るの暴行を受ける。それでも、気絶したままのケイリーを気遣うエヴァンに、「王子様なら、キスで起こしてやれよ」と残酷に言い、袋に火を点けようとするトミー。そこでエヴァンの記憶は途切れる。気がつくと、トミーはいなくなり、袋は燃え尽き、その後ろになすすべもなくレニーが立ち尽くしていた。レニーの病状が悪化したのは言うまでもない。
  
  
  
  

G  13歳のエヴァンの最後のシーン。町を出て行こうとするエヴァンと母の車に向かって、さよならを言いに走ってくるケイリー。それに気付いたエヴァンは、「君のために戻って来る」と書いた紙を窓に押し付ける(写真G-1)。この約束は実行されなかったので、悲しい別れだ。立ち尽くすケイリー。そして画面は、7年後へ。講義を終え、バーで知り合った女性を寮に連れ帰るエヴァン。女性はベッドの下にドラッグでも隠してないかと箱を引き出し、中に詰まっている日記を取り出す。変わったものを隠していることに興味を持った女性は、「7歳の時からずっと書いてる」と聞き、「読んでみて」と頼む。それは、ちょうど愛犬が袋に詰められ放火される直前の場面だった(写真G-2)。読んでいると日記の文字が揺れ出し、いきなり7年前のあの嫌なシーンに突入する。以前、記憶が飛んでしまったところだ。レニーが犬を助けてやろうと必死で袋を開けようとしている。しかし、ロープが堅く締まっているので「開けられない!」と叫ぶ(写真G-3)。その声を聞いたトミーは、レニーを振り返ると、「放せ。でないと、お前の母さんが寝てる時、喉をかき切るぞ」と脅す。さらに、トミーはエヴァンに、「いいかエヴァン、よく聞け。他にも妹は山ほどいる。なんで俺の妹に手を出しやがる?」と言い、愛犬の入った袋に火を点ける。エヴァンにとって初体験となる過去への移動はここで終わり、20歳に戻る。介入はしていないので、周りの状況は変わっていない。ただ、その間 気絶していたので、女性が心配そうに見ているだけだ。エヴァン本人も、本当に過去に戻ったのか、夢を見ただけなのか区別できない。
  
  
  

H  夢か事実かを確かめるためには、レニーに会って直接訊くしかない。そこで、車を運転して故郷の町に直行するエヴァン。レニーがダイナマイトと犬殺しの2回の惨劇を止められなかったことから受けたトラウマは7年後も尾を引いていて、彼は、部屋に閉じ籠もったまま飛行機の模型制作を黙々と続けている(写真H-1)。母がエヴァンを部屋に連れて来ても、見向きもしなければ返事もしない。そこで、「子供の頃、廃車置場に行った日のこと覚えてるかな? 思い出すのを手伝って欲しいんだ」と話しかける。すると、レニーは「ロープが切れなかった」と静かに答える。「他には?」とさらに尋ねると、「放せ。でないと、お前の母さんが寝てる時、喉をかき切るぞ」と、大声で叫ぶ。まさに、さっき聞いた通りの内容だ。これで、先ほどの体験が夢ではなく、信じ難いことだが、過去に戻ったのだと思い始めるエヴァン。その時、レニーが急に立ち上がり、エヴァンに詰め寄ると、「音を立てたら、命はないぞクソッタレ」と叫び、そのまま席に戻ると、静かに模型作りに戻った。再び寮に戻ったエヴァンは、さっそく郵便受けにダイナマイトを仕掛けた箇所を読んでみる。そして13歳の世界へと戻る。その際、エヴァンは戻ったショックで、加えていたタバコを口から落としてしまう。そこに家の持ち主が車で帰ってくる。動揺するレニーに、「音を立てたら、命はないぞクソッタレ」と命令するトミー。さっきと同じ言葉だ。車を見ていたエヴァンが唸る。さっき落としたタバコが、Tシャツのお腹のところに引っかかっていて、燃えて肌を焦がしたのだ。シャツをめくると、へその上に火傷が(写真H-2/写真I-1)。しまりのない腹部の写真を載せたのは、これが過去に介入できることをエヴァンが悟った重要な場面だからだ。その後、車から降りた母子は、一旦は家に入りかけて、郵便物がないかと郵便受けに戻ってくる。赤ちゃんが蓋を開けると、カメラは4人を写し、爆音が聞こえる。その瞬間、悲惨な結果に動揺する3人と、無表情なままのレニーとの対比が印象的だ(写真H-3)。この時点で、レニーはもう精神的に異常を来たしている。
  
  
  

I  自分が爆破事件に直接関与したことを知ったエヴァンは、寮で目が覚めて思わず吐く。そして、お腹にできた火傷〔それまでは、なかった〕に触れ(写真I-1)、自分が過去で「違った」ことをすれば、それが現在にも変化を及ぼすことに気付く。もっと情報がないかと、エヴァンは母をレストランに招いて、父のことを知ろうとする(写真I-2)。「ジェイソンは、言ってなかった? 記憶喪失でなくした記憶を 思い出す方法を見つけたとかいうようなこと」。「なぜ訊くの?」。「いや、ただ、頭のいい人だったら、失くした記憶を思い出す方法を見つけたかもと思って」。「そうね、今のあなたとちょうど同じ年頃の時、過去を思い出す方法を見つけたと言ってた。それが本当の記憶だったのか、そう思い込んでいただけかは分からないけど」「それと、病状が悪化して強制入院させられる直前に、できるようになったとか…」。「何を? 何ができたの?」。「忘れて。なんでもないの。その頃にはかなり変だったし」。これで、エヴァンの想像は、確信のレベルに達したと思われる。その状態で、再度故郷に戻り、ケイリーに係わる記憶を確かめようと思い立つ。ケイリーは、路傍のしがない食堂でウエイトレスとして働いている。他のウエイトレスとぶつかって料理の皿を落としたり、客にお尻を触られてもニコッとしたりする有様。注意力散漫は生きる意欲や目的を失っているからだし、性的にふしだらなのは15歳まで一緒に暮らしていた父親の影響だ。そんな風に変わってしまったケイリーを寂しげに見るエヴァン。仕事が終わるまで待っていて、ケイリーに話しかける。ケイリーは喜ぶが、エヴァンが、記憶喪失で消えていた記憶の一部が戻って来たので確かめたいと言い出し、7歳の時の児童ポルノ事件のことを訊こうとするで、「何が知りたいの?」と態度を急変させる。「つまり… 地下室で何があったのかな?」。これは、ケイリーにとって、最も触れられたくない記憶だ。「ずっと前の話よ」。「分かってる」。「そのために戻ってきたの? 下らないビデオのことを質問するため?」。「ただ、何か悪いことが起きたに違いないと思って…」。「そんなこと、何の意味があるの?」。「何があったにせよ、僕らの責任じゃない」。しかし、ケイリーの怒りは高まる。「君のために戻って来る」と紙に書いて町を去っていった最愛のエヴァンが、これまで自分をほったらかしにしておいたくせに、戻って来たと思ったら、最悪の過去の詮索をするためだったからだ(写真I-3)。ケイリーは、エヴァンに文句を並べた後で、「私が好きだったら、なぜ電話くれなかったの? なぜ、ここで朽ち果てるままにしたの?」と言い残し、泣きながら夜の闇に走り去って行った。
  
  
  

J  翌日の講義を終えて、夜エヴァンが寮に戻ると、留守録にトミーからのメッセージが入っていた。「やい、俺の妹に何を言った? 昨夜は、1時間以上も電話で泣いてたぞ。会ったんだそうだな。彼女は… 今夜自殺しやがった。死んだんだ。お前もだぞ」。あまりの衝撃的な内容に呆然とするエヴァン。町を訪れるが、埋葬の場には怖くて近寄れない。全員が引き払ってから、棺の上に花束と、なぜか今まで取っておいた「君のために戻って来る」と書いた紙を投げ入れる(写真J-1)。寮に戻ったエヴァンは、火傷の傷跡ができた経緯から、逆に、ケイリーの心の傷跡も直せるのではないかと思い立つ。そして、地下室で児童ポルノを撮らされていて記憶喪失になった日の日記を読み返す。すると、突然、7歳に戻り、ケイリーの家の裏庭に立っていた。ケイリーの父が、「地下室に行こう。地下牢みたいな感じが出る」と言う。頷くエヴァン。しかし、このエヴァンは外観は7歳だが、実際は20歳のエヴァンがコントロールしている。地下室に行き、父親がビデオをセットし、ロビン・フッドがマリアンと結婚するシーンを撮ると言い出す。「そして、大人みたいにキスしたりセックスする。だから服を脱ぐんだケイリー。さあ、風呂に入るのと同じだろ。大騒ぎすることじゃない。君もだぞ、エヴァン」。この時、エヴァンが、「耳を塞いでて」とケイリーに言葉をかけ、おもむろに父親に言い始める(写真J-2)。「今は、どんな時だ?」。「言われた通りにする時だ」。「違うな、ドアホ。これは、お前への罰の決定的瞬間だ。次の30秒で、2つのドアの1つを開けるんだ。1つ目のドアは、お前が血を分けた子に、生涯続くトラウマを与える。結果として、お前の娘は、病的な小児性愛の父親によって信頼を裏切られ、可愛い子供から 抜け殻になる。最後には、自殺に追い込まれる。素敵だな、パパさんよ」。「お前は誰だ?」。「お前を見張ってる者だよ、ジョージ。もう1つの選択は、ケイリーに、愛すべき父親が娘を扱うように接してやるんだ。そうするだろ、パパさん? よく聞けよ、ドアホ。もしまたバカしやがったら、誓って 去勢してやる。あと、お前に必要なのは、息子のトミーに自制心を持たせる(discipline)ことだ。あいつは、加虐的なガキだからな」。最後にエヴァンは、ケイリーに耳打ちし、「二度と私に触らないで」と言わせる(写真J-3)。子供の口から、子供の声で発せられる大人の言葉。父親も恐怖を感じ、言われた通りにする。ただ、問題は“discipline”には「罰する」という意味もあり、この介入によって生じたパラレル・ワールドでは、父親はケイリーには指1本触れなかい代わりに、トミーを執拗に殴ったため、彼はより凶暴な人間になってしまう。
  
  
  

K  こうして、映画は第1のパラレル・ワールドに入る。エヴァンが過去から戻ると、そこは寮のベッドの中。しかし、1人ではなく、一緒にケイリーがいる。仰天してベッドから飛び出すエヴァン。鼻血が出ている。過去へ介入し、新たらしい世界が作られると、エヴァンの脳の中で特殊な出血が起こり、それが鼻血となって表面化するのだ。この新しい世界は、彩度を上げて映像処理されている。色彩豊かな世界。それに合うよう、エヴァンとケイリーの仲も最高に幸せ。寮の社交クラブにも属していて、新入会員(pledge)達に手伝わせて、2人の素敵なディナーの夕べを演出する(写真K-1)。しかし、エヴァンが、「生涯を君と一緒に過ごしたい」と言ってキスした時、エヴァンの車が壊されているとの緊急連絡が入る。ケイリーと一緒に見に行くと、車はめちゃくちゃに破壊されている(写真K-2)。バックミラーには、13歳の時に殺されたエヴァンの愛犬の首輪が掛けられている。トミーの仕業だ。ケイリーは、トミーが数週間前に釈放されたと打ち明ける。そして仲を裂こうとして脅していることも。暗い公園の中を歩いてケイリーを送るエヴァン。そこに、金属バッドを持ったトミーが立ちはだかり、妹を奪うなと言って殴りかかる。最初は一方的にバッドで殴られていたエヴァンだったが、護身用に持ってきた催涙スプレーをトミーの顔にかけると形勢は逆転。目が見えなくなって倒れたトミーを、①レニーを廃人にし、②愛犬を殺し、③ダイナマイトで母子を殺し、④今また自分を殺そうとしたと責めつつ、殴る蹴るの暴行を加え、最後にはバッドで頭を叩き、殺してしまう(写真K-3)。
  
  
  

L  殺人罪で刑務所に収監されたエヴァン。新入りを「歓迎」する囚人達の行動は厳しい。同房になったのは、信心に目覚めた男性カルロス。幸い悪い人間ではないが、他の囚人から助けてくれるだけの力はない。ある日、面会に来た母が、エヴァンが頼んでおいた日記を2冊差し入れてくれる。しかし、日記を監房に持って戻る途中で、坊主頭の男がいきなりエヴァンの陰部をつかみ、“Shit on my dick or blood on my knife”と脅迫される〔下劣な言葉なので訳さない〕。何も答えないエヴァン。もう1人の金髪の男が、エヴァンの手から日記を払い落とす。必死で拾おうとするが、数ページを破り取っただけに終わった(写真L-1)。残りが欲しけりゃ、俺たちの監房まで来て性の奴隷になれという訳だ。エヴァンは殴りかかるが、逆に殴り倒されただけ。エヴァンは、カルロスの信心を利用しようと、「キリストが、僕をあんたの房に入れたのには訳がある。僕を助けるためだ」と言い、手元に残った日記のページを持ちながら、「気を失ったら、手と顔を見ていて」と頼む。とんでもない話なので、バカにして付き合っているだけのカルロス。その前で、エヴァンが読み始めたのは7歳の時の日記。「水曜日は、僕が描かなかった絵のことで大変だった。ママは、見せてもくれなかった」。すると、エヴァンは教室にいた。エヴァンは、今から計画していること。すなわち、坊主頭の男と金髪の男を刺し殺す絵(写真A-3)を描く。そして描き終わると、教室の隅に置いてあった2個の「針が剥き出しになった紙留」に、両手を思い切り突き刺したのだ(写真L-2)。両方の手のひらの真ん中に刺さる針。その瞬間に監房に戻る。両手にはキリストの聖痕のような傷跡が出現していた。それを見て驚愕するカルロス(写真L-3)。これでは、もうエヴァンの言う通りにするしかない。何せ、エヴァンの行動には神の意図があるのだから。
  
  
  

M  エヴァンは、さっそく、坊主頭の男と金髪の男の監房を訪れ、いいなりになりますと従順な振りをする。フェラチオしろと、2人が壁に並んで立つ。エヴァンは、それらしく前にしゃがみ込むと、隠し持ったナイフで男たちの陰部を切りつける(写真M-1/写真A-3)。その時、打ち合わせ通り、カルロスが房内に入り、誰も入って来られないよう、内側から鉄柵を閉める。エヴァンは、カルロスが渾身の力で鉄柵が開かないよう押さえている間に、男たちによって奪われていた日記を必死で読む。何とか間に合って、13歳の廃車置場の場面の直前に入り込む。トミーと会う前だ。森の中にエヴァン、ケイリー、レニーの3人がいる。エヴァンは、以前レニーが、犬を入れた袋のロープが堅く締まっているので「開けられない!」(写真G-3)と言ったのを覚えているので、ロープを切るものが何かないかと捜し回る。結局みつかったのは鉄片。それをレニーに渡しながら、「これを持ってて欲しい。今日は君の贖罪の日だ。あの女性と赤ちゃんに、罪の意識を持ってるだろ。今日、それを精算し、やり直すんだ」と言う。単に、「これでロープを切れ」とだけ言えばいいのに、余分なことを言ってしまう。これが取り返しのつかない結果につながるとも知らないで(写真M-2)。そして、犬を焼き殺す場面。火を手に持ったトミーに向かって、エヴァンは必死に訴える。「何でも君の言う通りにする。ケイリーに会うなと言うなら、そうする。犬を放してくれ。それに、今 犬を殺したら、少年院送りになるんだぞ。君だって、妹をあの父親と2人だけにしたくないだろ」。それを聞いて火を捨てるトミー。彼は、袋のロープを解き、犬を逃がしてやる。しかし、立ち上がったトミーは、後ろにいたレニーに鉄片で刺し殺されてしまう(写真M-3)。レニーは、最初は爆弾で間接的に、今度は鉄片で直接人を殺してしまった。これでは、トラウマどころではない。最悪の結果に頭を抱えるエヴァン。これは、兄を失ったケイリーにとっても、ショックだった。悲鳴をあげるケイリーの頬には、角材で叩かれた後に付いた大きな傷がある(写真M-4)。以前の世界で叩かれた時には顔はきれいなままだったので(写真F-4)、ここでも相違が生じている
  
  
  
  

N  そして、この大きな介入により、エヴァンは、第2のパラレル・ワールドへと移行する。以前より衝撃が大きく、鼻血だけではなく痙攣を起こしていたため、寮から病院に搬送されたエヴァン。脳のCT画像を見ながら医師が、「こんな症例は見たことがありません」と母に説明している(写真N-1)。話の内容に医学的な合理性はないのでカットするが、問題は、原因不明に戸惑う医師をバカにしたように扱うエヴァンの態度。自分の能力に過信している表れだ。エヴァンは、こっそりセキュリティ・カードを拝借し、病院内に監禁されているレニーの部屋に侵入する。レニーは、13歳の時に犯した殺人により、強度の精神疾患と凶暴性を併せ持った危険な患者として、ベッドに両手足をベルトで固定されている(写真N-2)。レニーは、「あの破片を手渡した時、何か大変なことが起きると知ってた。そうだろ?」とエヴァンを責める。「知ってた」。「なら、僕の代りにここにいるべきだ」。動揺するエヴァン。大学に戻ったエヴァンは、レニーのことで悩み、「先輩」でもある父に相談しようと、木陰で日記を読み始めた。7歳の時、父に会いに行った時のものだ。エヴァンは、以前と同じように父の前に座っている。エヴァンは、「すぐ答えが知りたいんだ。やったことを、修正しないといけないから」と父に訊く(写真N-3)。「この呪いは俺で終わったかと思ってた」。「そうじゃないよ。だから、間違いを正すのに情報が要るんだ。パパならそれができる」。「間違ってる! 誰かの人生を変えれば、誰かの人生が破壊される」。「物事をよくすることの どこが悪いの?」。「神のマネをしてはいかん。俺で終わるべきだった。ここにいるだけで、お前の母さんを殺すかもしれん」。「まさか、そんな嘘。全部ちゃんとやり終えたら、ハガキで知らせるよ」。何も分かっていない息子を止めるために父がしたことは、その場で息子を殺そうとすることだった(写真D-2)。
  
  
  

O  父の決死の警告は、しかし、エヴァンに何の薬にもならなかった。故郷の町を訪れるエヴァン。第2のパラレル・ワールドでは、初めての帰郷だ。最初の現実の世界でエヴァンが訪れたのと同じ食堂に行ってみるが、そこにはケイリーの姿はなかった。ケイリーの父親を訪れ、居場所を聞き出したエヴァンが行った先は「HOTEL」。解説によれば、「TEL」の部分が点滅しているのは、「HO」「TEL」を暗示するためだとか。「HO」は売春婦を意味する“whore”のスラングだ。中に入っていくと、すさんだ部屋に、如何にも娼婦といったいでたちのケイリーがいる(写真O-1)。エヴァンは、彼女を近くの食堂に連れ出して、これまで誰にも言わなかった「過去を変えられる」という話を打ち明ける。そして、「誰かを救おうとする度に、ひどいことになるんだ」と言い、もうやめると宣言する。すると、ケイリーが強い調子で反対する(写真O-2)。「ちょっと、今 あきらめないでよ。あたいをこんな目に逢わしといて。なぜあの時に戻って、ハルペンさんと赤ちゃんを助けないのさ? そうすりゃ レニーもまともだし、あたいの家族も壊れないだろ」。こう訴えるケイリーの頬には、醜い傷跡が残っている。13歳の時に兄に角材で殴られた時のひどい傷(写真M-4)が残ってしまったのだ。こうまで言われ、エヴァンは、ケイリーとレニーを救おうと決心する。寮に戻り、13歳の爆破事件の直前に戻ると、エヴァンは「下がって! 郵便受けに近寄らないで!」と母子に叫びながら郵便受けに駆け寄った。後先を何も考えないで。その瞬間、ダイナマイトは爆発し、エヴァンは吹き飛ばされてしまう(写真O-3)。
  
  
  

P  第3のパラレル・ワールドに移行したエヴァン。この世界でのエヴァンは、13歳の時の犠牲的行動で 両腕を失っている(写真P-1)。ケイリーとレニーは精神的にも健康で、お互い愛し合っている。その姿を見ているだけで、エヴァンは辛い。エヴァンは、「僕らのこと 考えたことある? つまり、考えたことあるかな… もし、状況が違っていたらって?」とケイリーに訊いてみる。「もちろんよ。あなたは、私が好きになった最初の人だもの」。「僕が?」。「そうよ。だから、小さかった頃、母と暮らせなかったの」。「分からないな」。「両親が別れた時、どちらと暮らすかを、私とトミーに選ばせたの。父には我慢できなかったけど、もし、母と一緒に引っ越すと、あなたに二度と会えなくなるから」(写真P-2)。これは、非常に重要な情報だった。両腕がなく、彼女もいないエヴァン。そのエヴァンの心を最後にプッシュしたのは母の病気。病院に連れて行かれたエヴァンは、末期の肺癌で病床についている母と面会する(写真P-3)。13歳で両腕を失くした息子の将来に悲観した母は、この世界では、ヘビー・スモーカーになっていて、肺癌を患っていたのだ。
  
  
  

Q  こうした窮状を打破しようと、エヴァンはもう一度過去への介入に踏み切る。自分では日記を読めないので、レニーにベージをめくってもらう(写真Q-1)。映画でははっきり説明されていないが、両手を失った後は日記を書けないので、日記は13歳でストップしているはずだ。しかし、この場合は問題ない。エヴァンが行こうとしていたのは、7歳の時点だからだ。エヴァンの目的は、13歳になった時、地下室のポットの中にダイナマイトが入っていないようにしておくこと。最初に戻ったのは、キッチン。ダイナマイトを破壊できるものはないかと、あちこちの引き出しを見て、包丁を手に取る(写真Q-2/写真B-3)。しかし、包丁では何ともならないので、すぐに20歳に戻り、先のページを読む。そこは、地下室での児童ポルノの場面だ。最初にこのシーンに戻って第1のパラレル・ワールドに移行した時と違い、「大人みたいにキスしたりセックスする」と言われた後、エヴァンはすぐに、「待ってて、ベルトが要るから」と言い、13歳の時にトミーが取り出したのを見ていたポットの中から(写真E-1)、ダイナマイトを取り出す。そして、ダイナマイトを左手に、ライターを右手に持ち、「下がれ、ドアホ。この言葉、お前にドンピシャだな」と脅す(写真Q-3)。エヴァンは、さらに「児童ポルノのこと児童保護サービスにいいつけてやる」「一歩でも近づいたら、尻に突っ込んでやるからな」と言った後で、ダイナマイトに点火する。ただ、このシーンには疑問が残る。一体、エヴァンはこんなことをして、結局、何をしたかったのだろう? 短い導火線に点火してしまったので、このままでは爆死するだけだ。死にたかったのか? その時、父親が飛び掛ってきて、エヴァンは火のついたダイナマイトを落としてしまう。ダイナマイトはケイリーの方に転がっていく。何も知らないケイリーは、導火線から飛び散る火花がきれいなので、喜んで手にとってしまう(写真Q-4)。
  
  
  
  

R  ケイリーは爆死し、エヴァンは第4のパラレル・ワールドへ。エヴァンは、精神病院のベッドに寝ている。7歳の時、目の前で、自分のせいでケイリーが死ぬのを見て、精神的に強いショックを受け、それからずっと入院している。何とかしようとベッドの下を覗くが日記は1冊もない。医師の部屋に飛び込み、「僕の日記、どこです?」と訊く(写真R-1)。しかし、エヴァンは、事故後すぐに入院したため、そもそも日記など存在していないのだ。医師も、日記のことは何度も聞かされていて、「ケイリーを殺した罪悪感が引き起こす想像の産物」だと思っている。如何にも精神病の重症患者そのものだ。次のシーン。医師が、CTの検査結果を母に説明している。「損傷は回復不可能です。正直言って、運動機能が失われていないことが不思議です」。涙にくれる母。エヴァンはその部屋に入って行くと、母に、「昔 撮ったホーム・ムービー、忘れずに持って来てくれた?」と訪ねる。「ええ、今 持ってるわ」。「よかった。すごく見たかったんだ」(写真R-2)。日記が存在しないので、ホーム・ムービーを見ることで、過去に戻ろうとしたのだ。かつて母から、父がアルバムを必死で捜していたと聞いたことが、その背景ある。ケイリーは、医師が母に「明日の朝一番で、ベルヴュー転院させます」と話すのを漏れ聞き、深夜医師の部屋に侵入する。そこからは、冒頭でのシーンと重なる。追加されているのは、メモを書き終えてから、8mmを見始めるシーンだ(写真R-3)。
  
  
  

S  8mm映像は、7歳の時の野外パーティのシーン(写真S-1)。ケイリーはエヴァンに寄ってきてキスをする。すごく好きなのだ。この映像から、エヴァンはパーティの中の自分自身に侵入する。エヴァンの目的は、両親と別れる時に、ケイリーを母と一緒に行かせること。そうすれば、すべての事件はなかったことになる。そこで、心を鬼にして、エヴァンはケイリーに、「大嫌いだ。もし今度寄ってきたら、殺してやる。家族ごと全員だぞ」と脅す(写真S-2)。このあまりの言葉に、母親の元に走って行って泣くケイリー。これで、ケイリーが、エヴァンを慕って無理に父親と暮らす可能性はなくなった。自分の払った犠牲に納得しながら、「さよなら」と寂しそうに言うエヴァンがとてもいい(写真S-3)。
  
  
  

T  こうして、第5のパラレル・ワールドへと移行する。この世界では、ケイリーは存在しない。少なくとも、ケイリーは全く別の世界の人間だ。レニーが寮の同室者で、一緒に日記や8mmを焼くのを手伝ってくれる(写真T-1)。ただ、この日記に書かれているのは、以前の日記とは全く別の内容だろう。以前と同じなのは、8mm映像のみ。それも途中から違っているはずだ。だから、わざわざ焼く意味はないのだが、単純に、二度と過去への介入をしないという強い意思表示と見ればいいのかも。そして、8年後、ニューヨークの都心で、偶然、エヴァンはケイリーとすれ違う。エヴァンは成人してからの色々なケイリーを見てきたので、すぐに見分けられたはずだが、ケイリーにとっては初めて見る顔だ。それでも、通り過ぎた後、振り返って見る(写真T-2)。そして、すぐに去って行くのだが、同じ愚はくり返さないと誓ったエヴァンは、敢えて呼び止めることはしなかった。2人が会うことは永遠にない。
  
  

U  監督たちが最初に予定していて、ディレターズ・カットに入っているエンディングは、もっと厳しい。エヴァンが病院で見る8mm映像は、自分が病院で産まれた時のものだ(写真-1)。その映像を見ながら、エヴァンは胎内にいる誕生前の自分の中に侵入する。そして、へその緒で自分の首を絞めて自殺する(写真-2)。その前に、母が「3度妊娠して、全部死産だった」と言うシーンがある。エヴァンの兄3人も、同じように自殺していたのだ。これで、祖父に起源を持つ過去への介入の連鎖は断ち切られた。
  
  

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